白兎と雪狼の、果てなき旅路

ドライブやドライブや写真撮影を趣味とし、その他、HSPやAセクシャル、イジメ。精神的・心理的なことについて綴っていきます。

Tails Intersecting -An étude-

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 ※注記※

 本記事はこれまで投稿した「Tails Intersecting」「Tails Intersecting -Stalemate-」「Tails Intersecting -Promotion-」「Tails Intersecting -Material Advantage-」「Tails Intersecting -Promotion-」「Tails Intersecting -Castling-」「Tails Intersecting -En Passant-」「Tails Intersecting -Check-」「Tails Intersecting -Checkmate-」「Tails Intersecting -Illegal Move-」Tails Intersecting -Castling-」の続編となる、短編小説です。

 登場人物は私の趣向により、ケモノです。

 この注記をご覧になり、違和感や嫌悪感を抱いた方は、申し訳ありませんがお引き返しください。

 ※注記終了※

 

 

 

 

 

 Tails Intersecting -An étude-

 

 

 

 血塗れのホッキョクオオカミに見据えられたアラスカンマラミュートは、空色の瞳をひたすら真っすぐに見返していた。

 数瞬の間。

 犬歯を剥き出して「勿論だ」と笑みを浮かべていた。

「昨日は、ありがとな。だから今はちょっと休んでろ白オオカミ」

「みんな白オオカミって……まあもういいか」

 そう言いながら手近な椅子を引き、ホッキョクオオカミは力が抜けたかのように腰を下ろした。角が引っかかりそうになったが、察したホッキョクオオカミは左腕を大きく回して角を上手く避け、俺を巻き込まないようにしていた。

「流石オオカミ、身のこなしが良いな」

 これが、こいつの優しさなのか……?

 そう思うのに、口からは無粋な言葉を並べる自分が、何だかみっともなく思えてきた。

「そんなことないよガゼル君。あのままだと君を床に叩きつけていただろうから」

 俺の思いを汲んだのかそうではないのか、相変わらず曖昧に笑うホッキョクオオカミ。

 何故だろうか。こいつとちゃんと話したこと、今までなかったのに。

 俺が思っていた以上に、面白い奴なのかもしれない。

「その時は思い切り目を突き刺してやるよ、この角でな」

「さり気なく怖いこと言うんだね。目どころか脳まで抉られそうだ。頭の中までかき混ぜられたら、ちょっと悲しいよね」

 斜め上を行く反応だった。クソ、絶対舐められてる。それとも天然なのかこいつは。

「何がちょっとだ。いいから黙って座ってろバカオオカミ」

 すまし顔をして肩を落としたホッキョクオオカミと共にバカをやらかした気がして、俺の方が恥ずかしくなってきた。

 アラスカンマラミュートが「もう喋ってもいいか?」とにやついた視線を送ってきている。ここはそっぽ向いていた方が正解だろう。

 

 ん?俺、今自分のことをバカって。

 ……あぁ、そうだったんだな。俺はきっと、自分のことを。

 自分で、縛っていただけだったんだな。

 

 俺たちのバカなやり取り聞き終えて息を整えたかのように、アラスカンマラミュートが話し始めた。

「ガゼルや白オオカミが大体喋っちまったから、俺が言うことはあまりないんだけどさ。この学園は、種族を超えて共存って言ってるけどさ。それって、作られたものじゃなくて、俺たちが創っていくもんじゃないのかって思ったんだ。だから変に演技掛かったものを作るよりも、さっきの出来事を日常の俺たちとして曝け出すのも良いんじゃないかって思ってさ」

「面白いこと言うな、マラミュート。気に入ったぞ」

 乾いた笑い声が響いた。

 縞模様の毛並みに隠れて見えないが、打撲痕を付けながらも腕を組んだトラだった。

 これまで聞いたことのない、愉快そうな声だった。

「悪くはない。だが本気で殴りかけ、爪や牙で傷付け合って、流血している。これはどうするつもりだ?見る者によっては恐怖以外の何物でもないぞ、アラスカンマラミュート?」

 続けるかのように、つい先程まで殴り合いになりかけたグリズリーがアラスカンマラミュートに問う。切り替えの早さは、クラス委員長を務めるだけあり流石だった。

 クラスの中でも二強とも言える二匹同時を前にすれば、普通の獣ならとっくに萎縮しているところだろう。

 だがアラスカンマラミュートは、折れたり逃げに走るような真似はしなかった。

「俺は逆に、そういう所こそカットしない方が良いと思ってる。俺たち獣が争った末路というか、最後は血を流し合う悲惨なことになることを、伝えたいんだ。勿論全部は流せないから、編集は必要になるだろうけどさ」

「その編集は、誰がやるんだ?」

「あ……悪い、そこまでは考えてなかった」

 言い淀みながら視線を逸したアラスカンマラミュートに、教室中の獣の視線が集まる。

 結局また揉めるのか、と思った矢先だった。

「オレたちがやるよ」

 一歩進んで発言したのは、コヨーテとクロヒョウだった。

「動画の編集自体は何度かやったことがあるから、カットして欲しいところがあればオレに言ってくれ。映像と音のズレは、動画配信してるクロヒョウができるはずだ」

「コヨーテ、余計なこと言うなよバカ!」

 教室がどよめく。動画配信しているクラスメイトがいるという噂は聞いていたが、普段はコヨーテにくっついてあまり喋らないクロヒョウがやっていたとは。

 一気に注目を集めたクロヒョウが、渋々言葉を紡ぎ始めた。

「だ、誰にも言わないでくれよ、俺が動画配信してること。でもデータさえ貰えれば、一日もあれば出来るよ」

「なんだ、お前も面白いことやってるんだな。今度お前の動画、見てみるからな」

「あーもう、柴犬まで!やっぱりこうなるんだから!コヨーテのバカ!!」

 誰だって隠しておきたいことがある、というのはこういうことなんだろうな。室内が笑いに染まる中、俺も思わず声を殺して笑ってしまった。

「いや、クロヒョウ、笑って悪かった。でもありがとな。最終的な映像の確認はみんなでやるとして、だ。あとは動画を流す前の語り部やタイトルなんだけど」

「それは言い出しっぺの君がやるんじゃないかな、マラミュート君?」

  顎に手を添えて思わせ振りな仕草をするアラスカンマラミュート。そこに透かさず言葉を滑り込ませたのは、ピューマだった。

 脚の素早さと俊敏性に違わぬ素早さ過ぎて、アラスカンマラミュートが「んあ?」と間抜けた声を出す程だった。

「そんな変な声出さないでよ、引いちゃうよそんな反応されたら」

「ピューマ、お前俺にやれって言ったのか?こういう大事なところは、委員長のグリズリーが適任だろ」

「他に擦り付けようとするな、アラスカンマラミュート」

 ピューマと揉めそうになった所に、ドスの効いたグリズリーの声。驚いたのか尻尾を一瞬垂直にした後のアラスカンマラミュートは、目が垂れ目気味になっていた。

 マジかよ、と今すぐ言いたいその口を開かせることは、グリズリーが許さなかった。

「確かにクラス委員で体格の大きい僕が出た方が、観る方はインパクトがあるだろう。だがこういう時は逆に、学園内であまり表舞台に出ない獣が買って出た方が観る者の注目を集めやすいかもしれない。また「グリズリーか」。それよりも「あいつ、誰だ」。そうやって意表を突いてから映像へ持っていけば、より惹き付けることができると僕は思っている」

「意外なこと言うんだな、グリズリー。お前ってもっと堅物だと思ってたけど」

「堅物は余計だ。お前が嫌だと言うのなら、他の獣がやっても良いと思う。このクラスなら、そうだな。トムソンガゼルやホッキョクオオカミか」

 そう言って、グリズリーがこちらをそっと向いた。いつもはアラスカンマラミュートが言うように、堅物という言葉がお似合いの鋭く、揺るぎない目線が。

 この時だけは、目元が緩んでいるように見えた。

 しかし、そんな目線を向けられても俺は困る。学園中の視線が集まる所に立つだなんて、俺はごめんだ。

 思わず俺は、しかめっ面を作っていたのだろう。その顔のまま、真横に座るホッキョクオオカミへと目線を移した。

 こいつも、そんな大役を任されるなんて嫌に決まっているだろう。そう思って見据えたホッキョクオオカミは。

「条件を付けても良いなら」

 傷だらけの顔を緩ませながら、柔和な笑みを浮かべていた。