白兎と雪狼の、果てなき旅路

ドライブやドライブや写真撮影を趣味とし、その他、HSPやAセクシャル、イジメ。精神的・心理的なことについて綴っていきます。

Tails Intersecting -Check-

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※注記※

 本記事はこれまで投稿した「Tails Intersecting」「Tails Intersecting -Stalemate-」「Tails Intersecting -Promotion-」「Tails Intersecting -Material Advantage-」「Tails Intersecting -Promotion-」「Tails Intersecting -Castling-」「Tails Intersecting -En Passant-」の続編となる、短編小説です。

 登場人物は私の趣向により、ケモノです。

 この注記をご覧になり、違和感や嫌悪感を抱いた方は、申し訳ありませんがお引き返しください。

 ※注記終了※

 

 

 

 

 

 Tails Intersecting -Check-

 

 

 

 右腕を噛まれ、盛大に血を撒き散らすホッキョクオオカミと。

 その腕に喰らいつくハイイロオオカミ。

 二匹は同じオオカミでありながら、似たような表情を浮かべていた。

 

 追い込まれた側と追い込んだ側。野生であれば致命的な立場なのに。

 ホッキョクオオカミが、罵る言葉を小さく放ったその瞬間。

 

 自分の右腕に噛み付く、ハイイロオオカミの喉元へ。

 牙の拘束を逃れようと全身で藻掻きながら、空いていた右膝を猛り声を上げながらねじ込んでいた!

 

 呼吸を絶たれたハイイロオオカミは堪らずに口を開き、涙を浮かべながら呼吸を確保しようと身を沈める合間に。自由になった体躯を、血の軌跡を描きながら素早く後退したホッキョクオオカミ。

 左目の裂傷と右腕の噛み傷から、白い自分の体毛を染める赤い血が滴り続け、汚していた。

 

 床にだらしなく涎と涙を零し、ハイイロオオカミが激しく咳き込む。

「ぐっ、ぅえっ!!」

「大丈夫かい!?」

 ピューマに背中を擦られる、その真正面。

 対するホッキョクオオカミは右腕から流れる血を舐め、薄ら笑いを浮かべながら。

 自分の血を、ハイイロオオカミの前に向かって吐き捨てていた。

 

 

 

「無様だな、「同族」?まだ足りないだろう、苦しんでいる暇なんかないはずだ。続けたいのなら、付き合うさ。逃げることは、どうせ君が許さないだろう?」

 挑発めいた言葉を述べながらも、身を屈めるホッキョクオオカミは少しふらついていた。

 一気に血を流し過ぎたせいだ。喜々として笑みを浮かべているが、意識は朦朧としているはずだ。

 それを聞いてか。

 床を揺らすほど、握った拳で叩きつけたハイイロオオカミの目は、血走っていた。こちらは、理性を保つのがやっとなのだろう。

「そう、だ。それでいい、ホッキョクオオカミ君っ!」

「やめろハイイロオオカミ!もうこれ以上は、唯の獣同士の争いになるぞ!」

 両肩に手を置き、制止させようとトラが更に両手の力を込めて宥めようとする。流石にマズい、とでも思ったのだろう。

 もう、誰が喧嘩をしかけてきたかなど、どうでも良いのだろう。それ位、今の状況は喧嘩を通り越して。

 唯の、殺し合いだ。

 それでも、いがみ合ってはいるが。

 クラス中が、この争いを止めようとし始めていることに気が付いた。

 傷付いたホッキョクオオカミや柴犬の手当てをすべく、保健委員のシマウマが走り出し。それまで中間的な態度を取り傍観気味だったコヨーテやクロヒョウがトラたちの元に駆け寄って説得を試みている。

 一方で大型草食獣のジャイアントパンダや猛禽類のオオワシが、草食獣に危害が及ばないよう陣形を組んで臨戦態勢に入った。

  こんな時だけ結束して……。

 そう思った俺は、きっと悪なのだろう。

「取り巻きは黙っていてくれるかな。グダグダ言ってる暇があるなら、来いよ」

 だが、どこまでも馬鹿で正直で、毛色のように純白さを貫こうとするように放たれたホッキョクオオカミの声が。

 争いを止めようとし始めている空気を、一気に噛み砕いた。

 

 

 トラたちを振り切るように、ハイイロオオカミが一歩踏み込んで跳躍。同時に、左目と右腕から血を滴らせるホッキョクオオカミも跳んでいた。

 普段は理性で抑えつけている、本能のままに。二匹は顎を大きく開き、鋭く大きな牙を剥き出し。

 互いの喉笛を食い千切らんばかりに、目を見開き先に噛み付こうと互いに咆哮を上げた。

 クラス中に、動揺の声と悲鳴が木霊した、その瞬間だった。

 

「そこまでだ」

 

 二匹のオオカミの間に、褐色の影が飛び込み。そして。

 大型肉食獣であるトラと同じ程度。ハイイロオオカミと比べれば、更に一回り太い両腕が。

 オオカミの牙に、その腕を割り込ませて、噛み付かせていた。

 

「グリズリー!今更何の真似だ!」

「穏便に済まさせる為に、もっと早く止めさせるべきだったな」

 トラの声に、野太い声で返すのは、大型肉食獣でも特に大柄な体付きと膂力を持つグリズリーだった。

 クラスを纏めるクラス委員長を勤め、文武共に成績を残すそいつは、強面でぶっきらぼうながらも対立しがちなクラスの双方に肩入れし、決して争い事に発展しないよう巧みな言葉遣いと理論で皆を先導してきた。

 まさかこいつまで、争いに加担するつもりなのか。

 

 両腕にオオカミを噛ませたグリズリーの表情は、痛みや苦痛の色は見られなかった。

 いや、寧ろ。

 見えない威圧のようなものを纏いながら見下ろす眼力は、牙を抜こうと暴れるオオカミ共を一瞬にして止めていた。

 草食獣であれば、失神する程の迫力だ。

「ホッキョクオオカミ、ハイイロオオカミ。お前らは確かに強い。だがな」

 左腕に噛み付いたホッキョクオオカミは、手負いであることを知った上でか。腕を軽く振り抜いただけで白い体躯は宙を舞い、床に落ちそうになる寸前に、受け身を取り素早く後転しながら距離を取った。

 他方で唸るように「放せ」と睨む、右腕のハイイロオオカミを。グリズリーは両脚で踏ん張りながら上半身を半回転、体重が80キロ近くある身体が簡単に振り回されて。

 その勢いのまま右腕を振り抜き、トラたちが立つ方に向かいハイイロオオカミを思い切り投げ飛ばしていた。

 飛ばされ受け身も取れないまま、トラたちに受け止められて、ハイイロオオカミは地面に激しく沈んだ。衝撃で口内を切ったのか、口元から血が溢れ出す。

 

 二匹のオオカミを、軽々しくいなしたグリズリーの姿は。騒然とする教室を黙らせるには、十分過ぎた。

「これ以上はやめろ二匹とも。停学どころか退学処分になるぞ」