白兎と雪狼の、果てなき旅路

ドライブやドライブや写真撮影を趣味とし、その他、HSPやAセクシャル、イジメ。精神的・心理的なことについて綴っていきます。

Tails Intersecting -Castling-

スポンサーリンク

※注記※

 本記事はこれまで投稿した「Tails Intersecting」「Tails Intersecting -Stalemate-」「Tails Intersecting -Promotion-」「Tails Intersecting -Material Advantage-」「Tails Intersecting -Promotion-」の続編となる、短編小説です。

 登場人物は私の趣向により、ケモノです。

 この注記をご覧になり、違和感や嫌悪感を抱いた方は、申し訳ありませんがお引き返しください。

 ※注記終了※ 

 

 

 

 

 

 Tails Intersecting -Castling-

 

 

 

 教室は、草食獣の悲鳴が反響するだけでなく。

 オオカミ同士の殺し合いを前にして。

 

 騒動の発端となったトラも、ピューマも。

 ホッキョクオオカミに押さえ付けられた関節の痛みに苦悶の声を漏らす柴犬も。

 そして、最初に喧嘩を吹き掛けられた俺でさえ。

 制する声も、出せないまま。

 その光景を、見詰めることしかできなかった。

 

 ホッキョクオオカミの腕に牙を立て、そのまま噛み砕こうとするハイイロオオカミと。

 腕を噛まれ、束縛から逃れようと唸り声を上げ続けるホッキョクオオカミ。

 しかし体格と膂力差から、噛まれた右腕の束縛は逃れることはできずにいた。

 

「その牙を、食い込ませるほど。僕の……俺の腕が上手いか、ハイイロオオカミ」

 

 空いている左肘や脚を使ってハイイロオオカミの顔面を殴るホッキョクオオカミの目は血走り、噛みしめる牙は砕けんばかりに軋っていた。

 対するハイイロオオカミは耳を貸さぬかのように、ひたすらホッキョクオオカミの腕に食らいついて。

 肉食獣の本能とも呼べる、噛み付いた相手を噛み砕くまで離すまいとばかりに。

 ホッキョクオオカミの腕から飛び散る血を、その顔に受けながら。

 まるで、愉悦に浸っているかのようにさえ見える。

 

 

 こいつらは。

 肉食獣は。

 狙った獲物をその牙と顎で噛み砕いて。咀嚼して飲み込むことが、全てなのか。

 その為なら、喩え同じ肉食獣であろうが、同族のオオカミであろうが、関係ないのだ。

 

 目の前の、血が舞い肉が抉られ、骨が軋む音を耳にして。

 脚が震えて逃げることもできない、俺は。

 草食獣の生存本能と同時に。

 

 逃げることもできない俺自身を、咎めるように。

 肉親からも疎まれて、それを見返したい思いで、周りを無視してまで勉学縋るようになって。

 血筋というものに、草食獣の俺ができる唯一の反抗を形にしようとしていたものが。

 眼前のオオカミ共に、崩されそうとしている。

 

 

 こんな、血生臭いことで。

 今まで貫いて、逃げることを勉学に変えたきた俺を。

 草食獣や肉食獣だけでなく。

 種族というものだけで。

 

 草食獣として生まれた俺を。

 肉食獣の強さを持ったお前らは……!

「噛み付くことに、必死なのは構わないが」

 感情を掻き回されるように、知らない間に奥歯を噛み締めていた俺の耳に。

 ホッキョクオオカミの、氷獄のように冷え切った声が、俺の思いを引き裂くかのように響いて。

「腹が、がら空きだぞっ!」

 猛るような声と、喉元から溢れる唸り声と共に。

 ハイイロオオカミの腹に、ホッキョクオオカミが右膝を思い切り叩き込んだ!

 

 奇襲のような一撃に、うめき声を一瞬上げたハイイロオオカミは思わず顎を開き。

 噛まれた右腕の拘束から、その隙きに逃れたホッキョクオオカミは身を翻して瞬時の間に後退、間を広げる。

 

 蹴られた腹を抑えながら、その口から唾液と血を滴らせるハイイロオオカミ。

 その一メートルもない先で、ホッキョクオオカミが片膝を付き、荒々しく息を立てても尚、仇敵とばかりに睨みを効かせていた。

 息苦しそうに声を絞り出したのは、ハイイロオオカミが先だった。

「ゲッ、ホ……身のこなしは、小柄な君の方が上手、か」

 その声を聞いてからか。

「腕を噛み砕こうとしたその口が、良くほざく」

 牙を突き立てられた右腕から流れる血を、徐に舐める。

 あたかも、自分の血の味を楽しむかのように。

 その口を自らの血で赤く染めた、ホッキョクオオカミ。

 

 いつの間にか姿を消したかと思えば。

 知らぬ間に姿を見せ、度々クラスメイトを驚かせてきた。

 これまでの陰湿的とも、影と共に生きていると思わせる程だったホッキョクオオカミは。

 草食獣の俺から見て、獲物を求める野獣に見えて。

 一度捉えた相手を逃がす、という選択肢を捨ててまで。

 尚も執拗に、固執するかのように眼光を光らせている。

 

 これが、肉食獣の本能なのか。

 だとしたら、俺のような草食獣なんて。

 

 こいつらからすれば、獲物であり、ただの食い物でしかないのだろう。

 そう思い始めてしまう。

 

 なのに。

 これまでは、そうやって呆れて諦めるようにしてきたんだ。

 

 それなのに、何なんだよ、この気持ちは。

 言葉に、できないのに。

 ただただ怒りのような、苛立ちのようなものが、全身を支配していく。

 気持ち、悪い。

 闘争本能などないはずの、草食獣の俺が。

 何で、こんな思いが……!

 

「お、おい。流石にヤバいだろこれ以上は。」

「やめて!貴方たちが争うところなんて、見たくない……!」

「誰か先生呼んできて!このままじゃ、二匹が!」

「殺し合う気なのかよ。やめろお前ら、落ち着けって」

 

 自分の感情さえ制御できなくなってきている俺を尻目に。

 周りの草食獣や肉食獣が、ようやく異変に気付いたのか。

 叫ぶように、もしくは戒めるようにな声が、教室に響き始めた。

 

 だが。

「煩いな。今まで黙っていたのに、今更騒ぎ出した外野は黙ってろ」

 ホッキョクオオカミが放った一言が。

 ざわめき始めた、教室にいる全員の意思や思い、そして行動を凍り付かせた。

 その様にホッキョクオオカミは牙を見せながら。

 ニヤリと笑いやがった。

「そう、その顔だホッキョクオオカミ君。隠してきた本性が、やっと出てきたみたいだね」

 目の前のオオカミたちは、争いにケリをつけるかのように。

 肉食獣が闘争する際に顕著となる、前傾姿勢になり。

 いつでも、相手を殺せる状態に成り果てていた。

 「よく口が廻る奴だ。来いよ、何を躊躇しているんだ、「同族」?」

 それでも尚、理性を保っているのか、挑発しているのか。

 両手を床に付けて牙を剥き出すホッキョクオオカミに向かって。

「言わせておけば、やっぱり君は気に食わない……!その首、噛み砕いてやるっ!」

 ハイイロオオカミが、地を蹴って跳躍した。

 それと、ほぼ同時にだったか。 

「何をやっているんだ、お前らっ!!」

  机を叩きながら、俺は今まで張り上げたことのない声を、オオカミどもに叩きつけていた。

 組み合った二匹のオオカミが。

 トラが、ピューマが、柴犬が。

 教室中の視線が、一斉に俺に突き刺さった。

 それでも。俺は。思いも感情も抑えることができなかった。

 そして、眼前の馬鹿二匹に向かって、叫んでいた。

「こんなことばかり続けて何になるって言うんだ、馬鹿野郎共がっ!」